短歌鑑賞:歌集「悲しき玩具」(28) 

()歌の順序は歌集の順序によります。

 

なつかしき

 

故郷にかへる思ひあり、

 

久し振りにて汽車に乗りしに。

 

「なつかしき」で行が分かれています。「なつかしき故郷」ではなく、あくまでも


「なつかしき」で行が分かれています。ですから、「なつかしき故郷」と、「なつか


しき」と「故郷」をくっつけて解釈するのは避けたいと思います。そうは言うものの


「、」「。」が「なつかしき」に付いていませんので、やはり二行目への関連性は大


いにあると思います。


 「なつかしき」で一息つき「故郷にかへる思ひあり」なのです。「なつかしき故


郷」というより「なつかしき思ひあり」なのだと思うのです。そしてここに読点


「、」がつき行が分かれて「久し振りにて汽車に乗りしに。」となります。



 それにしましても、「思ひあり」とはどういうことでしょうか。「思ひせり」とか


「思ひ湧く」とかではなく、「思ひあり」とはどういうことなのでしょうか。「あ


る」存在するというわけです。「思ひ」というものが、あたかも物体かなにかのよう


に「あり」、そこに「あった」というのです。


 この歌の中心はやはり、三行目「久し振りにて汽車に乗りしに。」だと思います。


久し振りに汽車に乗った啄木、何かの仕事の用事か、ちょっと分かりませんが、汽車


に乗ったのでした。久し振りに駅に行き、切符を買い、汽車に乗り座席に座る。汽笛


の音がする、蒸気や煙のにおいがする、皆久し振りのはずです。そんな環境のなか


で、当初考えてもいなかった思い、故郷にこれから帰るような思い、最近すっかり忘


れていた思い、なつかしい故郷に帰る思いに驚いたのではないでしょうか。まるで故


郷に帰る思いが、風呂敷包みかなにかのように座席の上に置いてあったような、そん


な不思議な感じを受けたのではなかったろうか。


 

なつかしき

 

故郷にかへる思ひあり、

 

久し振りにて汽車に乗りしに。